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はじめに、「みんなの闘病日記(マイカルテ)」に投稿していただいたじゅんちゃんを見てみましょう。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのじゅんちゃんは、昨年のフィラリアのお薬をいただくときに受診した健康診断で心臓に雑音が聞こえると診断されました。その後、6月下旬頃、急にゼーゼーするようになり、お散歩中に突然倒れてしまったそうです。
僧帽弁閉鎖不全症は、『僧房弁』という心臓のドアがうまく『閉鎖』できなくなることで、一方通行であるはずの血液が心臓内で逆流を起こしてしまう病気です。心疾患のうち80%程度が僧帽弁閉鎖不全症といわれているほど多い病気です。老齢の小型犬に多く発生するほか、遺伝的な要因もあり、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シー・ズー、マルチーズなどがこの病気にかかりやすい犬種です。
呼吸により、肺で空気交換された新鮮な血液は、肺⇒肺静脈⇒左心房⇒左心室⇒大動脈⇒全身⇒大静脈⇒右心房⇒右心室⇒肺動脈⇒肺へと一方通行で流れています。心臓には左心房と左心室の間に僧帽弁が、右心房と右心室の間に三尖弁があり、それぞれの部屋を仕切って血液の逆流を防いでいます。
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僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間の僧帽弁が、完全に閉まらなくなる状態をいいます。また、右心房と右心室の間の三尖弁が閉まらなくなる状態は三尖弁閉鎖不全症といいます。
原因ははっきりとは分かっていませんが、老齢犬での発生が多いため、加齢によって僧帽弁の変性(性質が変わること)が起こることが原因の一つと考えられます。この僧帽弁は、左心室がギュッと収縮するときに閉鎖して、左心房へ血液が戻ることを防いでいます。そのため、閉鎖不全が起こると、左心室から左心房へ血液の逆流が発生し、左心房に血液がうっ滞(血液が停滞した状態)するようになります。血液を溜め込んだ左心房は、気管を圧迫し、咳を誘発します。この「咳」が僧帽弁閉鎖不全症の初期症状です。この状態が続くと左心房に血液を送り込む肺静脈という血管の血圧が上昇して、肺においても血液のうっ滞がおこります。すると、血管から血液の液体成分がしみ出してそれが肺に溜まり、『肺水腫』という非常に危険な状態に陥ることがあります。
【その他の闘病日記】
それでは、僧帽弁閉鎖不全症(MR)とは、どのような病気なのでしょうか。別名、僧帽弁逆流、心臓弁膜症などと呼ばれることもありますが、心疾患のうち80%程度が僧帽弁閉鎖不全症といわれています。老齢の小型犬に多く発生するほか、遺伝的な要因もあり、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シー・ズー、マルチーズなどがかかりやすい犬種です。
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の左心房と左心室の間に位置する僧帽弁という二枚の薄い弁が、なんらかの原因で変性してしまい、弁が完全に閉まらなくなる状態をいいます。本来この僧帽弁は、心臓が収縮するときに心房と心室を閉鎖し、左心房へ血液が戻ることを防いでいますが、閉鎖不全が起こると、左心室から左心房へ血液の逆流が発生します。その結果、左心房や肺静脈の圧が上昇して肺における血液のうっ滞がおこり、肺水腫となって呼吸困難に陥ることがあります。この肺水腫という状態は、肺に液体がたまり酸素と二酸化炭素の交換がスムーズに出来ない状態のことであり、程度にもよりますが多くは緊急的な治療が必要です。
また、血液の逆流がある状態が長く続くと、心機能が低下して心不全状態をきたすことになります。
僧帽弁閉鎖不全症になると、具体的にどのような症状がでるのでしょうか?
最も分かりやすい症状は咳や、疲れやすいなどといった症状ですが、健康診断のために動物病院に通院した際に偶然に心臓の雑音を指摘されることもあるかもしれません。
しかしながら、ごく初期の段階では特徴的な症状が見られないことがほとんどです。僧帽弁閉鎖不全症は、ある日突然に起こるわけではなく、少しずつ閉まりが悪くなり閉鎖不全の状態へと進行しますので、初期の少しの異常であれば、身体がそれに適応するからです。
僧房弁閉鎖不全症は進行すると、元気消失や食欲不振、はっきりとした発咳や、激しい運動時や興奮時に突然倒れる(失神)などの症状があらわれます。また、前述の肺水腫という状態に陥ることもあります。
ここで、肺水腫について少し詳しく説明します。
血管からじわじわと液体がしみ出して肺に溜まり、酸素と二酸化炭素の空気交換がスムーズに出来ない状態です。進行した僧帽弁閉鎖不全症でよく認められます。
酸素の取り入れがうまくできないため、苦しく、安静時でも頻回の呼吸や開口呼吸(口を開けて呼吸する)が見られたり、呼吸困難やチアノーゼ(酸素が体全体に行きとどかずに、舌や粘膜の色が紫色になる状態)、ゼーゼーという呼吸音や不安そうで落ち着かない様子などが見られます。
呼吸音を聴診すると肺水腫に特徴的な捻髪音(髪の毛を指で捻ったときのような音)が聞かれます。また、胸のレントゲン写真を撮影すると、正常な肺は空気が入っているので黒く写りますが、肺水腫が起こっている肺では液体が存在するため、白いすりガラス状に写ります。
緊急的かつ集中的な治療が必要になります。肺に溜まった液体を除去するために、利尿剤(尿を作り出すのを促す薬)を投与したり、少しでも空気交換を助けるため、酸素を吸入させたりします。また、心臓の収縮を強める薬や気管支拡張剤などを投与し、安静を保つようにします。
【症状のチェックリスト】
以下に僧帽弁閉鎖不全症の一般的な症状を挙げました。1つでもこのような様子がみられる場合には、ホームドクターに相談してみましょう。
□食欲がない
□元気がない、じっとしている時間が長い
□散歩中に立ち止まる、歩くのを嫌がるようになる
□カッカッという咳や、痰を吐き出すような深い咳をする
□呼吸がゼーゼーと荒くなったり、苦しそうにする
□舌や歯茎の色が紫色になっている
□足がふらついたり、失神する
僧帽弁閉鎖不全症に関連する統計データを見てみましょう。アニコムグループでは、ペット保険契約者の皆様への保険金支払いデータを分析して「家庭どうぶつ白書」としてまとめていますが、この中に僧帽弁閉鎖不全症に関するデータもあります。
まずはワンちゃん、ネコちゃんでの循環器疾患での請求の内訳を見てみましょう。
■ワンちゃん | ■ネコちゃん |
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ワンちゃんとネコちゃんを比べてみると、圧倒的にワンちゃんで僧帽弁閉鎖不全症の請求が多いことが分かります。
では、ワンちゃんにおける僧帽弁閉鎖不全症の罹患についてもう少し詳しく見てみましょう。
■僧帽弁閉鎖不全症の罹患率の高い品種 | |
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犬種別で見ると、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのワンちゃんに多く見られることが分かります。後にはマルチーズ、チワワ、ポメラニアン、シー・ズーのワンちゃんが続きます。これらのワンちゃんたちは、ホームドクターでの定期健診の際に、しっかりと聴診をして貰うことが大切です。 |
■犬の僧帽弁閉鎖不全症の罹患率の年齢推移 | |
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年齢別で見てみると、4・5歳くらいから増え始め、7・8歳のシニアの年頃になると罹患率が急上昇してきていることが分かります。 |
【一般的な疫学】
上で紹介したのはアニコムでの請求からのデータですが、一般的には、臨床徴候は小型から中型の中・高齢犬に最も多く見られ、10歳以上の小型犬の30%以上が罹患すると言われています。好発犬種はプードル、ミニチュア・シュナウザー、チャウ・チャウ、フォックス・テリア、コッカー・スパニエル、ボストン・テリアです。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでは高率に、かつ早期に発症すると言われています。この犬種では遺伝的な疾患であり、性別や年齢が発症に影響を与える因子と考えられています。また、男の子では女の子よりも進行速度や重症度が高いといわれています。