コメントを書く・読む

  • (暮らしの豆知識)

がん(悪性腫瘍)と闘うどうぶつを支える(2) <免疫力を上げる>

近年、ご家族と暮らすどうぶつたちの高齢化やライフスタイルの変化、診断技術の向上などの 獣医療の進歩に伴い、がんであると診断されるどうぶつが増えてきています。
がんの治療は、外科手術や抗がん剤療法、放射線療法など、がんそのものをやっつけるための治療に目が向きがちですが、実はそれらの治療を成功に導くためには、「がんに負けない体作り」を同時に行うことがたいへん重要です。
具体的には「適切な栄養を摂取して体力を維持すること」や、「がんと闘う免疫力を維持すること」などですが、そのためには、日常生活の中で行う家での看護が重要な役割を果たします。がんと闘うどうぶつたちが、少しでも辛さから解放され、明るくて楽しい毎日を送るために、どのようなサポートができるのでしょうか。
今回は、がんに闘うために欠かせない「免疫力」についてのお話です。

がんと免疫

私たちの体に備わっている免疫のシステムは、病原体などの異物やがん細胞などの異常な細胞を認識して排除することにより生体を守る働きをしています。がん細胞は私たちの体の中のどこかで毎日発生していますが、免疫系の細胞がそれを排除してくれるため、大きながんに育つことはありません。
しかし、さまざまな要因で免疫システムの働きが落ちると、がん細胞を排除することができなくなり、さまざまな症状をあらわす「がん」が発生してしまいます。がんは、いったんその勢力が免疫システムの能力を上回ると、異常な細胞であるがん細胞を、自己の組織として誤って認識させて、攻撃しないように仕向けてしまいます。このようにして、がん自らが異常細胞の増殖を手助けし、自らの成長を促すのです。
がんを患っているどうぶつの免疫力をあげることは、がんの進行や治療後の再発を防ぐため、また、感染症にかかるリスクを減らし、がんのどうぶつのQOL(quality of life:生活の質)を維持するために、たいへん重要です。

第4の治療法 免疫細胞療法とは

従来、がんの治療は、おもに外科手術、抗がん剤療法、放射線療法の3つの治療法を柱に行われてきましたが、近年、がん治療に対する免疫系の働きの重要さが注目され、第4の治療法として「免疫細胞療法」という新しい治療法が行われるようになってきました。現在、人の医学では、多くの病院や医療機関などが免疫細胞療法を取り入れ、また、有効性や安全性を高めるための研究も積極的に行われています。これに伴い、獣医学の分野でも、免疫細胞療法を取り入れる動物病院が少しずつですが増えてきました。
免疫細胞療法は、どうぶつの免疫力を強化することで、がんの進行を抑えようとする治療法です。どうぶつの血液中からがん細胞を攻撃する免疫細胞を採取し、体外で培養し増殖させて体内に戻します。自分の細胞を使った治療であるため、副作用はほとんどありません。また、通常治療に麻酔処置を必要としないため、安全に行うことができます。
免疫細胞療法では、進行したがんや末期のがんを完治させるのは難しいといわれていますが、長期間にわたってがんの進行を抑えたり、再発を防いだり、どうぶつのQOL(生活の質)を改善する効果は期待できるといわれています。がんを治すのではなく、がんとうまくつきあっていくことを目的とした治療法といえるでしょう。
実施している動物病院は少しずつ増えてきていますが、まだ限られており、治療成績などのデータも数が少ないのが現状です。費用の問題などもあり、まだ広く一般的に行われるまでには至っていませんが、今後が期待される治療法です。

免疫力を上げるためにできること

毎日の生活の中で、大切な我が家のどうぶつの免疫力をあげるために、何かしてあげたい・・・。
家族の願いですね。普段の生活の中で実践できることを考えてみましょう。

◇笑うこと、リラックスすることで免疫力がアップ
私たちの体の中にあるリンパ球の一種であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、がん細胞や体に侵入してくる病原体をやっつける働きをしています。NK細胞の働きが活発だと、がんや感染症にかかりにくくなります。このNK細胞は、私たちが「笑う」ことで活性化されることが知られています。人で行われた実験に、「漫才や喜劇などをみて大笑いした後、NK細胞の働きが大幅に活性化した」というものがあり、その詳しいメカニズムも研究されています。
「笑う」という行為は人間(あるいは類人猿)のみに見られるもので、ワンちゃんやネコちゃんたちが私たちと同じようなメカニズムで「笑う」ということはないと考えられており、残念ながらワンちゃんやネコちゃんを笑わせる(楽しませる)ことがNK細胞の活性化につながるかどうかは報告されていません。ただ、ワンちゃんやネコちゃんも「楽しい」「嬉しい」と感じたり、リラックスした気持ちになったりすることはあり、そのような状況が免疫力の低下を防ぐという可能性は充分考えられます。
免疫に関与するリンパ球の数は、自律神経によって調節されています。自律神経は交感神経と副交感神経から成り、それぞれバランスを取りながら体の機能を調節しています。リラックスしているときには自律神経のうち副交感神経が優位に働くようになります。副交感神経が優位になると、がん細胞を  やっつけるリンパ球の数が増えることが知られています。つまり、リラックスすることで、がんと闘う免疫力が上がるのです。大好きな公園にお散歩に行く、大好きな飼い主さんの膝の上でなでてもらうなど、わが子が「楽しい」「うれしい」と感じられること、リラックスできることを見つけて実践してあげましょう。

◇ストレスは免疫力を低下させる
一方、悩み事や心配事があったり、ストレスをかかえていたりすると、副交感神経が働きにくくなります。その結果、リンパ球の数が減り、がんと闘う免疫力は低下します。がんのどうぶつは痛みや身体の不自由さ、通院や治療のストレスなど、たくさんのストレスと闘わなくてはなりません。そのストレスを最小限にしてあげること、すなわち痛みを取ってあげることや生活の中で不自由なことを介助してあげることは、免疫力の低下を防ぐためにも大事なことだといえます。
また、ワンちゃんやネコちゃんは飼い主さんの気持ちにとても敏感です。ワンちゃんやネコちゃんが自分の病状に悲観したり不安になったりすることはないといわれていますが、わが子を思うあまり悲しみにくれる飼い主さんをみることは、病気のワンちゃんやネコちゃんに不安を与えることになってしまうかもしれません。その不安はストレスとなり、免疫力の低下に影響する可能性があります。わが子の病状と向き合うことは辛いことですが、飼い主さんが明るく前向きな気持ちを持つことで、ワンちゃんやネコちゃんも安心して病気と闘うことができるようになり、その安心はがんと闘う免疫力を維持する力となります。飼い主さん自身が前向きな気持ちを持つこと、我が子の好きなこと、喜ぶことは何かを考え実践してあげること、そしていつも笑顔を見せてあげることが、何よりの治療になるのではないでしょうか。

◇体を冷やさない
体温は免疫力と大きく関係しているといわれます。人では、体温が1度下がると免疫力が30%落ちるといわれています。体温が下がると血流が悪くなり、免疫を担うリンパ球の働きが悪くなるためと考えられています。体を冷やさないこと、血流を良くすることは免疫力を上げるために大切なことだといえます。
体を冷やさないためにできることのうち、第一に挙げられることは、適度に運動して筋力を維持することです。具合が悪いと、どうしても安静にしていることが多くなりますが、体を動かさないと体温は低くなりがちです。無理のない範囲でお散歩をさせたり、遊びに誘ってあげましょう。もし自分で立つことが難しい状態であれば、手足を伸ばしたり曲げたりする運動(できれば飼い主さんがひっぱり、どうぶつが自分でひっこめるというような運動)をさせてあげると良いでしょう。
また、体をさすってあげることも、血流を良くして体温を上げることにつながります。動物用の暑し灸やホットパックなどを利用してもよいでしょう。お腹に毛の少ないどうぶつたちが、お腹を床につけて寝ていることでお腹を冷やしてしまうことが多くみられます。寝床が冷えないように工夫し、嫌がらないようであれば腹巻などを利用することも良いでしょう。

◇腸内環境を整えることで免疫力アップ
私たちの体の中で免疫細胞が最も多く存在しているのは、腸管だといわれています。食べ物の消化吸収を行う腸管は、絶えず食べ物と同時に体内に侵入してくる病原菌や有害物質と接しています。腸管免疫は、このように病原菌たちが体内に侵入して悪さをするのを防いでいるのです。がんと闘う免疫細胞も、腸管に最も多く存在していることが知られています。
また、このような腸管の免疫系に腸内細菌が大きく関わっていることが知られています。腸内細菌には体に良い働きをする善玉菌と、悪影響を与える悪玉菌がありますが、善玉菌を増やすことで腸内環境を整え、免疫力をあげることができるといわれています。なお、一部の乳酸菌には、がんと闘うリンパ球の一種であるNK細胞を活性化させる働きがあることも報告されています。
腸内環境を整えることは、消化吸収の働きをよくすることにつながり、体が必要な栄養素をきちんと吸収できるようになるため、がんと闘う体力を維持するためにも非常に重要です。
腸内環境を整えるためには、まずは食事やおやつの内容を見直してみましょう。わが子の体調や病状に合った、品質の良い、栄養バランスの整った食事を与えることはたいへん重要なことです。添加物が多く含まれていたり、栄養バランスの偏っている低品質のフードやおやつは、腸内環境を悪化させる可能性がありますので注意が必要です。
また、どんなに良いといわれる食事でも、どうぶつによって合う、合わないがあるものです。それぞれの体質に合ったものでないと、きちんと消化吸収できず、腸内環境を悪化させる可能性があります。病気のために食欲が落ちてくると、どのような食事を与えるかを決めるのは、たいへんな作業になってきますが、体ががんと闘うため、食事はたいへん重要な役割を果たします。わが子に合った質の良い食事を探してあげましょう。
腸内の善玉菌を増やし腸内環境を整えるためには、整腸剤や整腸作用のあるサプリメントなどが有効な場合もあります。どうぶつに対する安全性や有効性がきちんと評価されている動物用医薬品の整腸剤を動物病院で処方してもらうこともできますので、主治医の先生に相談してみても良いでしょう。

◇免疫力をあげるサプリメント
免疫力を上げる効果があるとされる成分を含んだサプリメントを利用してみるのも一つの方法です。代表的なのがアガリクスやマイタケ、冬虫夏草などのキノコ類に含まれるβグルカンです。こういった成分を含んだサプリメントがどうぶつ用にも数多く販売されています。実際にがんの進行を抑制したり、再発や転移を防いだり、がんのどうぶつのQOLをあげる効果などが報告されているものもあり、がん治療の補助として、このようなサプリメントの服用を勧める動物病院も数多くみられます。
ただ、効果や安全性がきちんと評価されている医薬品と違って、サプリメントの効果や安全性については未知の部分が大きいのが現状です。 また、商品による品質の差も大きく、有効性(本当にそのサプリメントが効いているのかどうか)がきちんと証明されているものもほとんど無いのが現状です。また、サプリメントだから副作用がないということはなく、肝障害などの副作用が報告されているものもあります。さらに、がんの種類(特にリンパ腫や白血病など免疫細胞のがんの場合など)によっては、免疫力を上げるサプリメントにより病状が悪化する可能性があることや、がんの進行状況によって炎症や悪液質の症状を悪化させたりする可能性があることも指摘されています。そのような問題点があることも認識し、サプリメントのみの効果に過剰に期待することなく、他の治療の補助として上手に使っていく必要があるでしょう。

みなさんからのコメント

コメントを投稿する